アメリカ横断TVガイド

アメリカ横断TVガイド (映画秘宝コレクション)

アメリカ横断TVガイド (映画秘宝コレクション)

サイケでゲイな乳児番組、黒人vsネオナチ公開討論、ゴミ映画罵倒劇場、男女10人監禁ゲーム…アメリカ人の真の姿を映すアメリカTVチャンネルの世界を紹介。『TV Bros.』連載記事に大幅加筆。

 最近夕食時に、スカパーにて放映中のアメリカのアニメ、シンプソンズを流してます。で、その中でアメリカの他の人気番組や放送局のパロディがよく出てくるんですが、元ネタがわからないと笑いも半減。悔しいのでサブテキストにと、このウンチク本を取り寄せました。


 映画・テレビオタクの著者が小気味良いノリで、豊富な知識を元に楽しげにテレビ番組を語ります。紹介される番組がもう本当にどれもこれもすごく黒くて悪趣味で面白そうなんですよー。例えば……


●時は西暦三千年。主人公はキチガイ博士によって、昔の安物映画で人類の頭脳を破壊するという実験のモルモットにされている。彼は正気を保つために、手近のガラクタでおしゃべりロボットを二体作り、三人でカス映画を笑い飛ばすのであった……という設定で、映画を流す横で司会者がそれに酷いツッコミを入れまくる『ミステリー・サイエンス・シアター3000』。


●長身で美人で巨乳のはぐれ女剣士が、ヘラクレスとシーザーと楊貴妃がいっしょくたに存在するアバウトな古代世界を放浪し、香港テイストの殺陣で豪快かつ凶暴に敵を殺しまくる。映画スパイダーマン2のオタク監督サム・ライミが作った、SFXヒロインアクションファンタジー『闘姫ジーナ』。(これはシンプソンズハロウィーンスペシャルに出てきてましたわ)


●見習い女天使が人間世界にやってきて、修行として不幸な人々を救う……んだけど、その対象が自分を訴えた被害者に復讐するため脱獄したレイプ魔、売春しながら道端で暮らすうちにSMの客に殴られて死にかけている少女、隣に引っ越してきたダウン症の青年を追い出そうとする偏屈な老婆、障害を持った我が子を殺そうとする母親、父親に犯されて身ごもった娘、黒人やゲイを面白半分に殺すネオナチ……。特別な力をなにも持たない天使は、この救われない人々に「神はあなたを見守っています」と伝えることしか出来ない、そんな心温まる人間ドラマ『タッチト・バイ・エンジェル』。(シンプソンズの裏番組だそうな)


 ……といった具合。つーか、こんな厳しい「ああっ女神さまっ」は脆弱な日本のオタクには耐えられないよ! シンプソンズを観ていて、日本じゃこんな危ない番組は絶対作れねーよ!こんなのを日曜夜8時に流すアメリカの常識はどうなってんだー!?と、ずっと不思議だったのですが、この本を読んで謎が氷解。黒いのはシンプソンズだけじゃなかったのか。(笑) つーか、日本と違ってアメリカの番組製作者は社会問題と向き合うちゃんとしたオトナ(で、それを安易なお涙頂戴モノとしてご大層かつ無駄に深刻ぶるのではなく、ネタとしてエンターテイメントに昇華させることのできる遊び心を持つ、頭の柔らかいコドモ)なんだよなーと器の大きさの違いを痛感。口惜しい。


 日本でも流れていて見知っている番組でも、それにまつわる向こうの事情がまた面白いんですよ。例えばイギリスで作られた乳児番組『テレタビーズ』。乳児番組なので、幼児番組のような学習要素は皆無の着ぐるみ不条理劇です。これに出てくる紫色のティンキー・ウィンキー。日曜朝のテレビでキリスト教右翼の牧師がこれを挙げて「紫はゲイのシンボル・カラー。そして彼の頭から生えているアンテナは三角形ですが、三角形もゲイのシンボル。これはアメリカの将来を担う子どもたちに”ゲイは友達”という意識を刷り込もうという陰謀です。おっさん声なのに女物の赤いバッグも持ってるし、これはもう確実です。」と攻撃。勿論そんなつもりなんて毛頭ない製作サイドを置き去りに、ゲイ論争は盛り上がる。そしてバッシングに反発したゲイ団体が、ついにティンキー・ウィンキーを自分たちのカリスマに祭り上げることにする。(笑) これがネタじゃないところが凄いぜアメリカ。


 『TV Bros.』ではコラムが今も連載中なので、是非続きも単行本化して欲しいところ。もう一冊分は溜まっているはずだー。読んでて、地方に住んでいた頃、アニメ誌に載ってる都心でしか流れない深夜アニメ、テレ東系アニメの記事を読んでいろいろ想像を膨らませてワクワクしてた時代を思い出しました。